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第428号 1993(H5).06発行

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イチゴの周年穫り新作型の開発

岐阜県農業総合研究センター
野菜科長 羽賀 豊

 1970年1月の全国イチゴ打ち合わせ会議の決定によれば,我国におけるイチゴの作型は第1表のとおりである(農業技術体系,野菜編イチゴ)。

 表題に記した新作型という表現は過言かとも思われるが,今回岐阜県農業総合研究センターで開発した1回定植で周年穫りする栽培法が前述の作型の区分とは異なるという視点から新作型とした次第である。

 さて,我国におけるイチゴ栽培は11月から5月までが主体であり,6〜10月は東北・北海道あるいは標高の高い地域でわずかに生産されているものの,特に8〜10月はアメリカからの輸入イチゴに依存している(第2表)。

 一方,現状のイチゴ生産は収入が季節的に限られること,労働については育苗から収穫まで周年的に厳しい条件におかれているなどの状況にある。このため,イチゴ栽培は雇用労力の年間活用,経営形態の企業化を困難としている。このような視点から当研究センターでは,1回の定植で長期間に亘って収穫可能で,かつ経営の安定化を図ることを目的に周年短日処理穫りの技術開発を行った。

 この技術の特色は現在生産の主力である一季成り性の品種を活用して,夏期間は株元付近の冷却と短日処理を組み合わせて栽培し,1回の定植で周年収穫するものである。以下この周年穫り作型の概要を紹介する。

【栽培方法】

①品種

 品種は主力品種である「女峰」,「とよのか」を用いる。両品種とも一季成り性品種であるため,夏期の高温長日条件では花芽分化が停止する。このため,周年穫りを行うためには,夏秋期に収穫しつつ,連続的に花芽を分化させる技術が必要である。

②育苗

 親株は10月下旬にパイプハウスへ定植し保温を1月上中旬から開始する。ポット鉢受けは4月下旬までに行い,ランナ一切りによる窒素中断開始が5月上旬,定植は6月上旬とする。この育苗方法で自然条件下で頂花房は100%花芽分花し出蕾する。

③施肥・畝立て

 定植準備は5月初旬に堆肥施用・土壌消毒を行ない5月下旬迄に完了する。施肥は1年収穫で270日か360日タイプの肥料を用いる。ロング270日を用いた当研究センターでの窒素の溶出量は第2図のとおりである。

 また畝は極力高畝とし,畝立て時に地表面から3〜5cmの位置に冷水を通すための内径20mmの塩化ビニールのパイプを3本埋設する(第1図)。

 更に定植後地温上昇抑制のためのシルバーマルチも全面に被覆する。

④冷却ユニット

 イチゴの株元付近を冷却するための冷水はハウス外に設置したヒートポンプを活用する。このことにより,夏期間でも地下20cmまで無処理区より5〜8℃低い20〜23℃に保たれるため生育は旺盛となる(第3表)。冷水の通水期間は定植前から10月までとする。

 一方冬期間はシルバーマルチにより地温が抑制され生育が低下するので,ヒートポンプで40℃の温湯を作り,埋設した3本のパイプの畝中央部の1本のみに通水し,地温を16〜18℃とする。

⑤遮光と短日処理

 夏期間はパイプハウス雨除け栽培とするが,定植前から10月上旬まで40%程度の遮光資材を屋根に被覆する。更に連続的に出蕾させるため,前述の土中冷水冷却と併せて短日処理を行う。短日処理はシルバーフィルムによって日長時間9時間とし,処理期間は定植2週間後から8月末までとする。

 無処理区,短日処理しない冷水のみ通水区では,夏期間花芽分化が完全に停止するが,冷水処理と短日処理を組み合わせた場合には花芽が連続的に分化し出蕾する(第3図)。

【成果】

①収量

 周年穫り栽培の時期別収量は第4図のとおりである。9月中旬〜10月上旬までは低収となり,また5月には芽の整理のため20日間の収穫停止があったものの,ほぼ年間を通して収穫が可能であった。8〜10月及び6〜7月の夏期には10a当たり1,960kg,11〜12月には1,810kg,1〜5月は5,250kgの収量となり,年間(8月から翌年7月)の可販総収量は9,020kgであった。また,11〜4月の収量は6,570kgで,平坦地での従来の作型である早出し促成栽培と比較しても収量の低下は認められなかった。

②果重

 周年穫り栽培の平均果重は7〜10月が7〜8g,11〜6月が10g程度で推移し,従来作型である早出し促成の12月,ポット育苗の1月及び各々の作型の3〜4月と大差ない平均果重である(第5図)。一方,規格別,収量構成としては年間を通してM以上率が45%程度となり,やや小玉傾向であった。

③果実品質

 周年穫り栽培の果実糖度(果頂部)は冬期13%程度で推移したものの,夏秋期には10〜11%と低くなった。一方果実酸度は冬期0.6%まで低下したものの,夏秋期には1.0%程度と高くなった(第6図)。このため糖酸比は11月から高まり冬期には20まで上昇し,5月まで13以上で食味良好であったが,その他の夏秋期には10程度で酸味の強い食味となり,この時期の用途としては業務用と考えられる。

④経済性

 この周年穫り新作型は当研究センターの圃場約3aを活用して行った実証結果である。栽培規模を拡大する場合,種々の問題点が発生することも懸念されるが,大雑把な経営概算は第4表のとおりである。イチゴ栽培においても反収1,000万円の可能性を示唆しているものと考えられる。

〔今後検討すべき事項〕

 以下今後技術的に検討を要する項目について列記してみると

①短日処理の省力化技術
②夏期高温時収穫における果実品質向上技術
③夏期収穫における鮮度保持技術
④1回定植多年穫り栽培法の開発
⑤消費電力軽減技術
⑥周年穫り栽培に適する品種育成

【まとめ】

 今回当センターで開発した周年穫り栽培は,春植えからスタートして翌年の秋に植え替え(1年3ヶ月栽培),又は2年後の春に植え替え(1年9ヶ月栽培)という作型となる。

 現在1回定植多年穫り栽培の試験を行っており,これにより育苗の省力化も図られるものと考えられる。5〜6年のサイクルで考えた場合,現状の単年度完結型の育苗〜収穫の作型より,大幅な省力化,労働緩和に連がるものと確信する次第である。今後この周年穫り栽培法が種々の技術組立によって,イチゴ栽培の新作型として完成することを期待している。

附記

 この研究につきましては,中部電力株式会社の多大なる御支援のもとに実施したものであり,深くお礼申し上げます。

 

 

水田における土壌窒素の評価と今後の研究展開

石川県農業総合試験場
農業研究専門員 北田 敬宇

Introduction

 環境保全および持続型農業を前提にした高品質生産が求められている。このような背景の下で,稲作では次の点が土壌肥料分野に要請されるようになった。

 第1は,耐倒伏性の弱い良質米品種および高品質・良食味の志向に対応した養水分管理技術を確立する。第2は,有機物施用に伴う土壌の養分動態を定量的に把握するとともに,土壌肥沃度の長期変動予測に基づく適正な有機物管理指針を策定する。第3は,土中施肥,緩効性肥料の施用および不耕起栽培などにかかわる,土壌-作物系における養分動態を解明し,効率的な肥培管理技術を確立する。

 水田においては上記の解決に向けて,土壌生態系の物質循環,とくに窒素の動態解明が最も重要な課題となっている。ここでは,土壌窒素の評価について,これまでの成果を概観し,今後の研究展開について論じたい。

2.土壌窒素の無機化予測

1)土壌窒素供給パターンの把握

 コシヒカリに代表される良質米品種は一般に耐倒伏性が弱く,良質米品種の移行に伴い,窒素を中心としたきめ細かな肥培管理が求められるようになった。また,近年の気象変動に起因する作柄の変動が大きく,水稲の生育状況や気象条件の推移などの情報に基づいた肥培管理対策が要請されるようになった。このような肥培管理技術を解決するには,土壌別に土壌窒素の無機化予測を行い,これに基づいた合理的な窒素施肥体系を確立する必要がある。

 さて,圃場においては土壌環境要因の,とくに温度が時々刻々と変動するため,土壌窒素の無機化量を時間・温度の関数として表わす必要がある。金野,杉原らの速度論的方法においては,温度の適用範囲が広く,また無機化過程の特性がパラメータにより明らかであり,有効な方法と考えられる。

2)速度論的解析法による土壌窒素無機化予測

 土壌窒素の無機化は,微生物により同化される有機化反応と同時に進行している。土壌中の窒素はこのように複雑な動態を示すが,土壌から作物への土壌窒素の移行を考えるとき,土壌窒素の無機化がとくに温度変動によりどのようなパターンを示すかが重要な点であり,この意味において土壌窒素の解析を行うには常に土壌環境要因の影響評価を行う必要がある。したがって,圃場における土壌窒素の動態の解析を行う場合,できるだけ圃場の土壌環境条件に近似させて行うことが重要となる。

 速度論的解析法では長期の湛水培養が必要となるが,その状態は圃場における土壌の湛水条件に近似させたものであり,適当な方法と考えられる。ただ,閉鎖系である試験管内での無機・有機化反応に関与する微生物とその活性は,透水性が付与された圃場でのそれとは培養に伴い異なってくるものと考えられる。

 そこで,筆者は水稲の土壌窒素吸収量を予測するにあたり,生育期間中のいずれの時期の土壌を用いれば精度よく予測できるかを検討した。結果を第1図に示すように,水稲の窒素吸収量は春先の土壌での予測によりおおよその推定ができるが,窒素無機化過程は採土時期により異なることがわかる。

 また,上野らは,春先の圃場乾燥状態に対応した土壌窒素無機化量を推定する方法を提案している。すなわち,第2図に示すとおり土壌水分別の土壌窒素無機化パターンを求め,当該年の水分状態の窒素無機化量は,比例計算より培養データより求めるものである。

 このように,速度論的解析法は,時々刻々と温度が変化する圃場において,作物への土壌窒素供給パターンを求めるのに有効な方法と考えられる。そして,なによりも,得られた無機化特性値により土壌窒素の無機化特性が明らかとなり,現地圃場への適用が一般化できる。

3.土壌窒素無機化予測に基づいた窒素施肥体系の確立に向けて

1)施肥量策定のための土壌窒素無機化予測

 適正な施肥量は,目標とする水稲の窒素吸収量と土壌窒素吸収量との差を,生育時期を追って補足していく方法が基本になる。このシステム施肥法を確立するため,筆者は数量化Ⅰ類の統計解析から第3図に示すように,土壌の種類別に,コシヒカリの多収水準(収量650kg/10a)における窒素吸収パターンを明らかにした。

 さらに,合理的な窒素施肥量を判定するため,施肥時期や土壌の種類別に,土壌窒素無機化量および施肥窒素量の水稲による利用率を明らかにした。利用率は,土壌管理要因や,水稲根の活力,根系の拡大速度などの要因により変動するため,窒素無機化推定量と窒素吸収量とは,生育初期ではそれほど一致しないことが報告されている。

 鳥山は,水稲の窒素吸収パターンと土壌の窒素無機化パターンの関係を第4図のように模式化し,窒素吸収の律速段階の違いによってphaseを分ける考え方を示している。これによると,phase-1では,窒素吸収の律速要因が稲体要因(生育速度)であるのに対し,phase-2では土壌要因(窒素の無機化速度)である。

(1)適正な基肥窒素量の判定

 phase-1では,春先の湛水前土壌の乾燥程度などの環境要因の変化により,土壌窒素の無機化反応が不安定となる。また,土壌窒素無機化予測法により基肥窒素量を判定する場合,当年の気象情報が乏しいため予測精度は低下することがある。

 このため,生産現場では,肥培管理技術のより簡便で,しかも現場に適合した方法が求められている。このような観点から,筆者は,適正な基肥窒素量は平年的な気象年次において,多収水準を維持するに必要な最高分げつ期の窒素吸収量が得られた時の量とした。

 この方法に従って求めた土壌ごとの適正な基肥窒素量と,湿潤土アンモニア化成量(30℃,4週間湛水培養)との間には第5図に示すとおり,土壌の種類を問わず曲線回帰関係が認められ,湿潤土アンモニア化成量を指標とした基肥窒素の施肥基準を策定した。

(2)適正な追肥窒素量の判定

 phase-2では,土壌窒素の無機化反応が安定であり,窒素無機化推定量と窒素吸収量とはほぼ一致するという報告が多い。適正な追肥窒素量(kg/10a)は以下の式で求められる。

 筆者は,組み立てたシステム施肥法に基づいて施肥管理を行い,目標とする窒素吸収パターンに誘導できるか,さらに安定多収が得られるかについて検討を行った。

 幼穂形成期次いで穂揃期に窒素栄養診断を行い,それぞれ次期の穂揃期,成熟期における目標とする窒素保有量と土壌窒素吸収量との差から追肥窒素量を判定し,生育時期を追って補足した。

 現地圃場におけるシステム施肥法に基づく追肥窒素量の判定結果と,それによる水の窒素吸収パターンおよび収量調査結果を第1,2表に示す。システム施肥法により,土壌の種類を問わず理想的な窒素吸収パターンが得られ,640〜670kg/10aの目標収量が達成された。

 本試験は,毎年同じ土壌管理が行われている連作水田で実施したものであるが,田畑輪換体系や新たな土壌管理が行われている状況下では,環境要因の変化にも対応したシステム施肥法を構築していくことが必要であろう。

2)新たな土壌管理技術に対応したシステム施肥法の構築

 長野間らは,低湿重粘土の汎用化のため,輸換田における部分耕移植栽培の作業技術を検討し,その有効性を認めている。これによると,代かきによる土壌の亀裂の粘閉がなく,またわらが田面にあるため土壌還元が進行せず,このため土壌窒素無機化過程が連作田と異なるものと推察される。

 また,環境保全や省力化を目指し,緩効性肥料による施肥法や側条施肥および二段施肥などの局所施肥法が検討されている。これらの施肥法では,土壌の種類や土壌肥沃度により施肥効果が大きく異なるので,これら土壌条件を考慮する必要がある。

 不耕起土壌における窒素無機化過程について,大山は水稲の窒素吸収に及ぼす代かきの影響について検討し,結果を第6図に示す。粒状構造(代かき省略)の土壌は泥状構造(代かき)に比べ窒素無機化が遅れ,水稲の窒素吸収が生育後半に旺盛になると報告している。これは,耕起砕土の程度が土壌有機物を分解する土壌微生物の活動の場を規制し,窒素無機化に影響を及ほすためと思われる。

 上記の報告は,土壌管理と土壌の不均一性および環境変化との関係を明らかにしながら,土壌窒の動態を調査する必要があることを物語っている。

4. Conclusion

 環境保全,生産持続性を前提にした,高品質生産のための土壌管理・栽培技術が種々提案されている。この技術に対応した研究は土壌肥料分野にも求められており,とくに土壌窒素の動態については,圃場で起こっている現象機構の理論的解明が急務である。今後,圃場における土壌環境要因を組み込んだモデルの開発が必要であろう。